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大阪地方裁判所 平成10年(ワ)9534号 判決

原告 X

右訴訟代理人弁護士 杉本吉史

被告 株式会社三和銀行

右代表者代表取締役 A

右訴訟代理人弁護士 今村峰夫

同 久保井一匡

同 久保井聡明

同 黒田愛

同 上田純

主文

一  被告は原告に対し、金三一一万九七七四円及びこれに対する昭和六三年一一月一八日から支払済みまで年三・三九パーセントの割合による金員を支払え。

二  被告は原告に対し、金三〇四万八七〇二円及びこれに対する昭和六三年一一月一八日から支払済みまで年三・三九パーセントの割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

四  この判決は第一、二項に限り仮に執行することができる。

事実

第一原告の請求

主文第一、二項同旨。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、「a建材工業」の屋号で住宅設備商品の販売、修理業を営むものである。

2  原告は、昭和六二年七月下旬ころ、原告の店舗に集金等のために来ていた被告松原支店の担当者B(以下「B」という。)から、同支店に定期預金をしてほしいと勧誘を受けた。

その際、原告は右担当者に対して、原告名義での定期預金を作ることはできないと言ったところ、右担当者は原告に、他人名義でもいいから預金をしてほしいと勧誘した。

そこで、原告は右担当者の面前で、原告の元従業員であった大阪市〈省略〉に居住のC(以下「C」という。)に電話をして、その事情を説明し、Cの名義を貸してほしいと頼んだところ、Cが了解したので、被告において三〇〇万円の定期預金を作ることを右担当者に承諾した。

その結果、原告は昭和六二年七月三〇日、右担当者に三〇〇万円を原告の店舗で渡して、C名義の預入期間一年の定期預金を作った。その際、届出印は「C」の認め印を原告において用意し、定期預金証書及び印鑑は原告が保管していた。

3  右定期預金は昭和六三年七月三〇日に満期となったが、原告は解約をせずに置いてあったところ、昭和六三年一一月中旬ころ、被告松原支店の担当者が原告に対して、さらに三〇〇万円の定期預金を作ってほしいと勧誘した。

そのため、原告はC名義でさらに定期預金を預け入れることを承諾し、昭和六三年一一月一八日、右担当者に対して三〇四万八七〇二円を渡し、預入期間一年、利率年三・三九パーセント、自動継続特約付の定期預金を作った。

また、先にC名義で定期預金をし、満期を経過していた前記の定期預金は、元利金が三一一万九七七四円となったため、同日、原告は、C名義で、その元利金を元金として、預入期間一年、利率年三・三九パーセント、自動継続特約付の定期預金を作った。

右各定期預金(以下「本件各定期預金」という。)の預金証書及び届出印も原告において保管していた。

4  平成九年九月上旬ころ、原告は被告に対して、本件各定期預金証書とC名義の右届出印を用いて本件各定期預金の解約請求を行った。

ところが、被告は、本件各定期預金については、平成七年一一月ころにCが定期預金証書及び届出印の紛失届を提出したので、既に同人に対し支払済みであるとの理由で原告の請求に応じない。

5  しかし、本件各定期預金の真の権利者は原告である。原告が他人の名義を用いたのも、被告松原支店の担当者Bの勧めに従ったまでのことであり、右担当者は本件各定期預金の実際の出捐者が原告であることを知っていた。

6  よって、原告は被告に対し、本件各定期預金の払戻請求として、各元金とそれらに対する各預入の日である昭和六三年一一月一八日から預入期限までの約定年三・三九パーセントの割合による利息及び期限後から支払済みまでの民事法定利率の範囲内で右同割合の遅延損害金の支払を求ある。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実中、昭和六二年七月三〇日に被告松原支店で、原告主張のC名義の定期預金が作られたことは認め、その余は不知。

3  同3の事実中、昭和六三年一一月一八日に被告松原支店で、原告主張のC名義の各定期預金が作られたことは認め、その余は不知。

4  同4の事実は認める。

5  同5の事実中、被告松原支店の担当者が本件各定期預金の実際の出捐者が原告であることを知っていたことは認め、その余は争う。

三  被告の抗弁

仮に、本件各定期預金の権利者が原告であったとしても、被告は平成七年一一月二九日、Cからの解約払戻の請求に応じて同人に払い戻したところ、右解約払戻は、債権の準占有者に対する弁済として有効である。

四  抗弁に対する認否

争う。

本件各定期預金の実際の出捐者が原告であることを被告松原支店の担当者が知っていたから、Cに対する解約払戻につき被告に過失がある。

第三証拠関係〈省略〉

理由

一  請求原因について

1  請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

2  同2の事実中、昭和六二年七月三〇日に被告松原支店で、本件各定期預金が作られたことは当事者間に争いがなく、その余の事実は、〈証拠省略〉及び弁論の全趣旨により認められる。

3  同3の事実中、昭和六三年一一月一八日に被告松原支店で、原告主張のC名義の各定期預金が作られたことは認め、その余は〈証拠省略〉及び弁論の全趣旨により認められる。

4  同4の事実は当事者間に争いがない。

5  同5の事実中、被告松原支店の担当者が本件各定期預金の実際の出捐者が原告であることを知っていたことは当事者間に争いがなく、前記1ないし4の事実を併せ勘案すれば、本件各定期預金の権利者は原告であると認められる。

二  被告の抗弁について

〈証拠省略〉及び弁論の全趣旨によれば、被告がCからの請求に応じて同人に対し解約払戻をなしたことが認められるところ、被告は、Cに対する解約払戻が債権の準占有者に対する弁済として有効であると主張するが、被告松原支店の担当者が本件各定期預金の実際の出捐者が原告であることを知っていたことは被告の自認するところであるから、被告に過失があることは明らかであって、右主張は失当である。

三  以上によれば、原告の本訴請求は理由があるから認容し、訴訟費用の負担につき民訴法六一条を、仮執行宣言につき同法二五九条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 田中澄夫)

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